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2015年5月30日土曜日

理想と現実

先日、大工の棟梁が弟子を取りました。
10代の高校新卒です。

「何故大工を選んだの?」
と、聞いた私に、彼はこう答えました。

「大工は、カッコいいじゃないですか!」

目を輝かせて・・・
自分の中で膨らんだ大工のイメージを話す若者。
親方の法被姿に、目はハートマークです。

あまりにもキラキラした様子に「大丈夫かな?」と思いながらも・・・

「まあ、頑張れよ~」

と、迎え入れてあげました。

翌日、現場に行くと、親方が手取り足取りです。
釘の打ち方から、テッポウの扱い方。
材木の見方から、丸ノコの触り方まで丁寧に教えています。


「今の若者は、恵まれてるな~」と、心底思いました。

大工は、「見て覚えろ」の世界です。
一昔前は、何一つ教えてもらえず・・・
仕事が出来なければ賃金ももらえず・・・
覚えが悪ければ、すぐに拳が飛んでくるような・・・
どちらかというと、一般社会よりも極道に近い堅気な社会です。

だから、見習いは日々必死です。
一日でも早く技術を身に着け、金にしなければ食えない訳ですから。

そして、聞き返したり、同じ間違いを二度すると殴られるから、目の色が違う。

でも、今の若者にはそれが通用しない。
親方に「今日はゲンコツ何回飛びました?」と効いてみると・・・
「今の若い子を殴ったら、すぐに来なく無ちゃいますよ。」と苦笑い。

そういうと、間違えたところを指摘して、「これじゃあ、ダメだろ、取り外してやり直しな。」と、優しく指導をしているではありませんか。

その3日後・・・

現場に行くと、棟梁一人しかいません。

「あれ?若い衆は?」
と聞くと、棟梁、困り顔でこう言いました。
「朝、具合が悪くなったから、今日休みますっだって。」

これは、嫌な予感がします。

その次の日、現場に行くと・・・
やはり、親方一人。

「あれ、ダメですか?」
と聞くと、親方、怒った顔で
「腹が痛いって」

あっちゃ~、こりゃ5月病ですね。
しかも、実働2日です。

弟子入りして、3日目で腹が痛いと2日休んだら、普通その時点で首ですね。

でも、親方・・・
「明日まで様子を見てみます。」
と、仏顔。

翌日、
現場に、
19歳の彼は、来ませんでした。

「大工はカッコ良いじゃないですか!」

この言葉、私の中で引っかかっていました。
19歳の人間が吐く言葉じゃないのですよね。
小学生か中学生低学年だったら解りますが・・・
成人する人間の感覚とはかけ離れていると思うのです。

自分の中で勝手に良いイメージを膨らましてたんでしょうね。
いざ、実際に大工の仕事をしてみたら・・・
イメージと全く違う訳です。

細かい作業が満載です。
それでいて孤独です。
大工の技術と知識を習得するのには、膨大な時間がかかります。
親方と一対一です。
それが、何年も続きます。
一人前になるまでは、収入はアルバイトに毛が生えた程度。

何年も頑張って一人前になったらなったで・・・
一人で、とても大きな責任を負わなければいけない仕事です。

それでいて、仕事が常時あるわけでは無い。
勝手に舞い込んでくるものではない。
自分で営業して、仕事を取ってこなくてはならないのです。

その姿は、はたから見たら解りません。
実際やっている方は、日々必死なわけです。

個人的に、そこまで知って「カッコ良い」とは思うのですが。

週休1日。
仕事があれば日曜日もやるのは当たり前。

現場では、木クズで粉まみれ。
大工仕事以外に、清掃も頻繁に必要です。

そして、現場では仮設トイレなので、用を足すのに不衛生。

そんな環境に、現代の若者が身を置くと・・・
3日と持たないのですね。(^^;)

やっぱり、学校教育が悪いですよ。

労働が何たるかという部分が、抜け落ちてる。
金を稼ぐという意識が、教育に無さすぎる。

きれいごと過ぎるんです。
教育のすべてが、きれい事なんです。

だから、理想と現実の溝を埋めようという努力すらできない。
ちょっとでも自分のイメージと違ったら、リセットしちゃう。

諦めるのではなく、突然ブツッと切っちゃう。

まるで、ゲームのように。

なんだかな~

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